富山市民でつくる、味の地図。「ます寿し食べ比べチャート制作」イベント潜入レポート

「どのお店のます寿しがおすすめですか?」
これまで幾度となく、この質問を受けてきました。
個人的に贔屓のお店はあるけれど、味の好みは人それぞれ。酸味がしっかり効いたものが好きな人もいれば、甘みの余韻を大切にする人もいる。締めの強さに惹かれる人もいれば、やわらかな口当たりを選ぶ人もいるでしょう。
「ます寿しに正解はなし!」とはわかっているけれど、できれば好みに近いものを選びたい気持ちはありますよね。
市民の舌で描く、富山市の味の地図
ます寿しは江戸時代から続く、富山の郷土料理です。長きにわたり富山の地で親しまれてきたこの味をあらためて市民の舌で確かめ、味わいの見える化を図る試みが行われました。それが今回レポートする「ます寿し食べ比べチャート制作」イベントです。
今まで店舗やイベントごとに、独自の視点でつくられたます寿しチャートは存在していました。しかし今回は、富山市12店舗のます寿し店が所属する「富山ます寿し協同組合」が「これまで感覚的に語られてきた味わいを、市民の舌という基準で可視化してみたい。市民のみなさんに味わいの指標を決めていただくことで“公式”と言えるものがつくれるのではないか」という思いのもと、イベント形式での開催が実現しました。
836人の中から選ばれた200人の調査員
チャートの制作にあたり、市の広報誌やすしのまち とやまのSNSなどでイベントの参加を呼びかけたところ、なんと836件もの応募があったそう。イベントでは抽選で選ばれた200人の市民のみなさんに実際のます寿しを食べ比べて、評価をしていただきました。その集計結果をもとに、富山ます寿し協同組合公式ます寿しチャートの完成を目指します。

長テーブルが整然と並ぶショッピングセンターの会場。

総勢200名分のます寿し食べ比べセットを、富山ます寿し協同組合と富山市役所職員が一丸となり制作しました。

抽選で選ばれたみなさん。受付で評価手順の説明書とます寿しを受け取り、1時間ごとに3部制での食べ比べがスタート。

こちらが味比べセットです。一口大に切られた12個(12店舗分)のます寿しが並べられ、AからLまでのアルファベットで表記されています。店名を記載しないのは、先入観を持たず、味そのものと向き合うための工夫です。

会場はにぎやかというより、静かな集中に包まれていました。
評価中のみなさんの表情は、真剣そのものです。
三口に分けて、味を確かめる
私も一員として参加してきました。

味の評価は5つの項目に分けられています。酸味の強弱、甘みの広がり、塩加減、酢による魚の締め具合、押し具合。これまで感覚的に語られてきた味わいを、数値により可視化していきます。
「優劣を決めるためではありません。店舗ごとの特色を明らかにし、個性を伝えるためです。」と、富山ます寿し協同組合の理事長・大郷さんは言います。
まずは一口目。全体の印象をつかむためのひと噛みです。小さな一切れを、これまでにない時間をかけて味わいます。
酸味の立ち上がり、米の押し具合、マスの口当たり。まずは、ます寿しの輪郭をゆっくりと確かめていきました。
二口目は、評価項目を意識しながらパクリ。酢の強さはどのくらいか、甘みはどこで広がるのか。締めは強いのか、それともやわらかいのか…。頭の中でぐるぐると考えを巡らせながら、数字とにらめっこ。用紙の数字に丸をつけていきます。

そして最後の三口目。「この数字で本当に大丈夫だろうか」と、自分の舌に問い直します。こんなにじっくりと、ます寿しと向き合ったのはもちろん生まれて初めての経験です。
酢がきりりと立つもの。 米の甘みが静かに広がるもの。 締めが強くて食感に芯があるもの。全体がふっくらとまとまるもの。「おいしい」だけでは表現しきれない要素を分解し数値に置き換える作業は、思っていた以上に難しいものでした。

隣の方がぽつりと 「難しいなぁ」とつぶやいた言葉に、心の中で首がもげるほどうなずいたのは言うまでもありません。
それぞれの再発見

会場にはお一人で来られた方、ご夫婦、お子様連れの方など、さまざまな方が参加していました。何人かに感想をうかがったところ、「いつも同じ店のものしか買っていなかったんです。でもこのイベントを機に、他の味を知るきっかけになりました」「息子の“推し”は見つかったみたいです」と、ここに来るまでのいろいろな背景やエピソードを聞かせてもらいました。
味を比べることで、みなさんの中に新しい発見が生まれていたのが、とても印象に残りました。
すしのまちとして、これからも

評価解答欄に数値を入れ込み、評価は終了。来場記念のバッジを受け取って会場をあとにしました。
今回のイベントを通して感じたのは、優劣ではなく、それぞれのお店が大切にしてきた歴史や製法が、きちんと味に表れているということ。ます寿しは、お店ごとに物語を持っています。その物語を語れる市民であり続けたい。そう思えたことも、大きな収穫でした。
この市民でつくったチャートは今後、協同組合加盟店舗や市のイベントなど、あらゆる場面で活用されていくとのこと。
これからも富山でしか語れない寿司、そしてます寿しの魅力をたくさんの人を巻き込みながら「すしのまちとやま」として伝えていきたいと、強く感じられた一日でした。
公式チャートの完成は4月後半ごろを予定しています。また追ってご報告したいと思います!