富山の日常を旅するガイド

地元民が立ち寄るパン屋で過ごす、理想的な旅の朝。
旅行や出張で県外を訪れたとき、宿泊した翌朝は、少しだけ早起きして散歩しながら街の空気を感じたい。地元の人が立ち寄るような喫茶店やパン屋さんを見つけられたら、そこで朝食をとる。こんな時間が、私にとって理想的な旅の朝だ。


富山駅前にある『パンドール』は、こんなふうに考えている旅人のささやかな願いを叶えてくれる場所だ。イートインスペースは2席。コーヒーは1杯100円で、自分で入れるセルフサービススタイル。冷蔵庫には、富山でお馴染みの『とやまアルペン乳業』のコーヒー牛乳「カウヒー」の姿。机の上にはパンを温め直すためのアラジンのトースターと朝刊。朝を過ごすのに必要なものが、ここには全部揃っている。

朝7時の開店に合わせて、店内にはサンドイッチや惣菜パンがきれいに並べられる。早い時間にやってくるお客さんは、目当てのパンが決まっているようだ。お店に入ると迷うことなくパンをいくつかトレーに載せて、レジへ直行。最短距離、最短時間での買い物が、いかにも朝らしい光景。

実は私も『パンドール』で買うものは四半世紀以上変わらず「ブラックサンド」と決めている。黒糖の香りが漂う食パンに、スクランブルエッグ、ポテトサラダ、辛子ハムのサンドが各2切れずつ並んでいる。かつて富山駅前で働いていた私にとって、「ブラックサンド」は寝坊して家を出た朝の救世主だった。だから仕事を辞め、富山駅前に通わなくなってからも、お店に行くと「ブラックサンド」を手にする。もしも「ブラックサンド」が売り切れていたら、「ぶどうパンのサンドイッチ」。この2つを食べるたびに、当時の思い出がよみがえってきて面映ゆい。

そもそも、私は『パンドール』の食パンが好きだ。粉の風味、もちもちとした食感、きめの細かさ、ちょうどいい耳の硬さ、きれいな白さ。どこをとっても好き。だから富山駅前のカフェで出される「小倉トースト」が、『パンドール』の食パンだということにもすぐに気付ける。友人や知人に『パンドール』を勧めるときは、食パンにジャムやバターを挟んだ「スペシアルサンド」を食べてもらう。「おいしい!」と言われると、自分のことを褒めてもらったような気持ちになる。
店の隅には、食パンをスライスするときに出た「パン粉」が置いてある。買い物をしたら一人2袋まで持ち帰ってもOK。この贅沢な「パン粉」を使うだけで、家でつくるハンバーグがとてもおいしくなるのだ。

私がよく通ったころは店主の山崎清一さんが中心となってパンを焼いていたが、今は息子の達也さんも加わっている。達也さんの役割は、新商品の考案やこれまでのパンを一層おいしくするために改良すること。大学でロシア語を学び、在学中にアメリカに留学していた達也さんは、今も英語に翻訳されたフランスのパンの本を読みながら、学び続けている。そのなかでハード系のパンが増え、ピタパンが登場し、日替わりのピザも並ぶようになった。スタンダードプードルと暮らしている達也さんは、火曜限定で犬用のパンも焼いている。そんな新しい試みを続けるなかでも、長年通うお客さんたちが思い描く「『パンドール』らしさ」は、大切に守られている。

私にとっては、富山駅前で『パンドール』が変わらず店を開いていてくれること自体が、とてもありがたい。もはや実家のような存在に思える。いろいろなお店のパンを食べるけれど、それも安心して帰れる場所があるからこそなのかもしれない。(T)
パンドール
富山県富山市桜町1-6-11 山崎ビル1F
営 7:00〜18:00
休 日・水曜
※祝日は営業しているが、日・水曜と重なった場合はお休み
P 4台
Instagram @paindor_since1946
現金またはキャッシュレス可

